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2020.09.04

【恒石 直和】 スポーツ団体ガバナンスコードの根拠

スポーツ団体ガバナンスコード(中央競技団体向け)が令和元年6月10日に制定されました。
これによって、中央競技団体(いわゆる日本◯◯競技連盟、というような、特定のスポーツを日本国内で統括している団体のこと。通称NF。)は4つに分けられ、原則として令和2年度から5年度までの4年間のいずれかの年に、コードの遵守状況を審査されるとともに(下手をすると不適合認定)、毎年自らも遵守状況を「自己説明・公表」(因みに、個人的にはどうしてもこの表現が気持ち悪いのですが、端的に「説明の公表」ではだめだったのでしょうか・・・。)することが求められます。

 

本来、今年度審査予定のNFは7月末日までに審査書類の証憑資料を提出するはずだったところ、新型コロナの影響でスケジュールが後ろ倒しになっていますが、着々と以下のような関連するルールが決められています。

・スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>適合性審査運用規則
・スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>適合性審査委員会設置要項
・スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>適合性審査委員会予備調査チーム設置要項
・スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>適合性審査結果通知及び情報公開に関する規則
https://www.japan-sports.or.jp/about/tabid1273.html

このように、さあさあ皆さん、こうしますよ、ああしますよ、ということになっているのですが、なんで守らなければいけないの?根拠は?不適合って言われたらだめなの?という点を確認しようというのが本稿です。
グッドガバナンスのためだ!というような趣旨的・目的的な話ではなく、法的な話として、これ無視したらだめなの?という説明が、あまり見かけられないような気がしたので、整理してみようと思った次第です。

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よく似た名前のルールとして、コーポレートガバナンス・コードというものがありますが、これに関して「守らなかったら駄目なの?」という問に対する回答は、誤解を恐れずに言えば「説明さえしていれば別にいいよ」ということになります。

ただ、企業があまり不合理なことをしていると、投資家(株主、市場)はどう思うだろうねえ・・・(ΦωΦ)フフフ…、ということに尽きます。
※なお、コードを守っているか、守らないことにつきどのような説明をするかは、コーポレートガバナンス報告書への記載が求められます。これは上場するに際して遵守することとなっている有価証券上場規程(東京証券取引所)第419条、有価証券上場規程施行規則(東京証券取引所)第415条が根拠になります。

したがって(?)、全部遵守できているという企業は少数派で、圧倒的多数は、コードのうちの何かしらについて、エクスプレイン(遵守しないことについての説明)をしています(例えば、議決権の電子行使の環境整備・招集通知の英訳(補充原則1-2④)あたりは、ハードルが高く、遵守(コンプライ)は約半数にとどまっています。)。エクスプレインが合理的かどうか、は、突き詰めて言えば市場(投資家)が判断することになります。公的な立場から適合・不適合と言われることはありません。
参照:「改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況及び 取締役会並びに指名委員会・報酬委員会の活動状況に係る開示の状況」
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000004epdk.pdf

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さて、一方のスポーツ団体ガバナンスコードですが、制定主体はスポーツ庁です。
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop10/list/detail/1420887.htm

しかし、法律に根拠のある省令では無さそうですし、これだけで遵守義務が生じる、というべき理由は見当たりません。

そこで、さらに見ていくと、コード3頁に

「JSPO,JOC 及び JPSA(以下「統括団体」と総称する。)は,以下の4つの事項に取り組むこととしている。
(1) ~(3) 略
(4) 上記の各事項を適切に実施するために,加盟要件にガバナンスコードへの適合性を追加するとともに,必要に応じて加盟団体規程を改定する。」

とあります。

なるほど、ということで、一例としてJSPO(日本スポーツ協会。以前の日本体育協会。)を見てみると加盟団体規程に

(遵守すべき事項)
第 11 条 加盟競技団体は、スポーツ団体として適正な組織運営等を行うため、 スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>の適合状況について自己説明及び公表を年1回実施するとともに、本会が実施する適合性審査を4年毎に受け、不適合となってはならない。
2.(略)

と、ちゃんと定められています。
これによって、JSPOに加盟している以上、JSPOとの関係においてNFにコード遵守義務が生じ、これを怠ったり不適合となったりすると、加盟団体規程違反となってしまい

(処 分)
第 25 条 加盟団体が(中略)第 11 条(中略)に定める義務を怠る等組織運 営等に適正を欠いたとき(中略)は、次の処分を行う。
(1)注意
(2)勧告
(3)資格停止
(4)資格変更
(5)退会
2.(略)

ということになるわけです。

すなわち、スポーツ団体ガバナンスコードは、統括団体の加盟団体規程化されており、統括団体に加盟している以上、注意~退会のサンクションの下、遵守が求められる、という構図になっているのです。
(※なお、JSPOは国体を管轄(厳密には共催)していますので、実施競技の選定に際し、関連項目の評価において、又はコード自体評価項目化されることで不利益に考慮される可能性もあります。

https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data0/kokutai/pdf/kitei54.pdf

こうしてみますと、上述したコーポレートガバナンス・コードとは、根拠・強制力の在り方がかなり違うことが分かります。ソフト・ローのようであってそうでないような…。

そして、もう一点、実は無視できない事実上かつ強力な強制力があります。
日本スポーツ振興センター(JSC)の助成金です。この助成金には

・スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成
・スポーツ振興基金の運用益等による助成
・競技強化支援事業助成金(国からの交付金)による助成

がありますが、それでなくとも財務基盤の脆弱性が問題となっているスポーツ団体において、助成金は極めて重要です。
この点、JSCはスポーツ団体ガバナンスコードに関連して

https://www.mext.go.jp/sports/content/20200414-spt_sposeisy-000006545_4.pdf

というようなことを言っています。
要するに、コードの遵守状況によっては、助成金、減らし(無くし)ちゃうかも・・・と言っているわけです。
NFにとって、助成金の減額(いわんや交付無し)は一大事です。組織の存亡にすら関わりかねません。これは重要です。
こちらは、強制力の在り方が、若干コーポレートガバナンス・コードに似ているかもしれません(とはいえ、公金を原資とした助成金ですので、やはり性質は異なります。)。

こうしてみると、スポーツ団体ガバナンスコードは(特に財務基盤が弱い中小規模の団体であればあるほど)かなり強い強制力を持っていると言えます。

NFと(上場)企業はあまりにもその性質や取り巻く環境が異なりますが、敢えて言えば、NFには、上場企業における市場というべきものが存在しないこと、及び一競技に一団体しか認められないことによる競業他社的な組織が存在しないこと(ステークホルダーに選択肢が無いこと)が大きな要因であるように思われます。

ただその分、現実的かつバランスのとれた適合性審査と(かなり規範的な判断が求められることとなるように思われます。)、不適合判断に際しての統括団体による毅然とした対応(これを誤ると公平を欠き、実効性が失われます。)が非常に重要になります。これは必ずしも容易ではありません。

中央競技団体に無理を強いることなく、コードの実効性を確保して中央競技団体のガバナンス向上を図ることができるか、今後どのような審査がなされるか、注目されます。

以上